ISS「きぼう」での材料研究に小澤教授が参画学生デザインのシンボルも採用

JAXA（宇宙航空研究開発機構）は国際宇宙ステーション（ISS）の「きぼう」日本実験棟にある静電浮遊炉を利用する材料研究テーマ募集制度（基盤研究利用コース）の搭載実験として、工学部先端材料工学科の小澤俊平教授が提案した「酸素の影響を考慮した表面張力測定法の評価とその応用」を選定しました。サンプルはドラゴン補給船運用33号機（SpX-33）によって、2025年8月24日15時45分（日本時間）に米国フロリダ州ケープカナベラル空軍基地40番射点から打ち上げられ、2025年8月25日20時05分（日本時間）にISSに到着しました。宇宙実験は、２０２6年春に実施される予定です。

JAXAは、熱物性値の取得や新機能材料の創成を通じて、科学的成果を社会に還元することを目的に、２０２３年１０月から「きぼう」での実験に用いる試料の公募を行いました。小澤教授は、ISSにおいて重力と酸素の影響を同時に排除した測定を行えば、世界で最も正確な基準データの取得が得られると考え、本研究を提案しました。高温融体の熱物性値を正確に把握することは、材料開発や製造プロセスの最適化において極めて重要です。近年では、試料が容器から汚染されない無容器法による測定が広まりつつありますが、その測定値の信頼性を保証するには、重力や酸素の影響を受けない「基準」となるデータが必要不可欠です。特に表面張力は、ppm（0.0001%）レベルの酸素濃度変化にも敏感に反応することがあり，その影響を適切に考慮することが求められます。

「きぼう」に搭載された静電浮遊炉は、金属や酸化物の熱物性値の高精度測定に加え、過冷却を利用した新材料の開発や凝固現象の解明などに活用されています。しかし現状では、実験中の酸素濃度をリアルタイムに評価する手段が無く、従来は地球に帰還した試料の事後分析によって、実験終了時点の酸素濃度を推定するにとどまっていました。小澤教授の研究では，宇宙実験中に測定される表面張力の変化から，試料中あるいは雰囲気中の酸素濃度をリアルタイムで推定する新たな手法の実証も目指しています。これが実現すれば、取得データの信頼性や現象解釈の精度が向上するだけでなく、実験条件の最適化や新たなテーマの創出にもつながると期待されています。

こうして得られる高精度データは、地上における表面張力測定の補正や較正に活用され、溶接、鋳造、結晶成長、3Dプリンティングなど、様々な高温プロセスの高度化に貢献します。最終的には、製品の性能・品質の向上、資源循環型の材料設計の推進、省エネルギー化やCO₂排出削減といったSDGsの達成にも寄与することが期待されます。

小澤教授は「本提案は，課題の解決に資する技術的ブレイクスルーとなる可能性を秘めています」と述べており、宇宙を舞台とする本学発の先端的な材料研究に注目が集まります。

工学とデザインの協働　小澤教授研究と松崎研学生のデザインがJAXAプロジェクトに

今回の宇宙実験プロジェクトでは、研究活動を象徴するデカール（ステッカー）のデザインを、デザイン科学科・松崎研究室の学生が担当しました。JAXA関連のミッションで、学生によるデザインがそのまま採用されるのは珍しく、本学ならではの学際的な連携の成果といえます。

依頼を受けた松崎研究室では、まず、小澤教授から４年生11名に対して研究内容の講義が行われ、その後、学生たちがプロジェクトの理解を深めながらデザイン案を練り上げました。最終的に３名の学生が提案したデザインから一案が選定され、今回のプロジェクトを象徴する公式マークとして採用されました。

選ばれたデザインは、岸田樹（きしだいつき）さんが手掛けたもので、コンセプトは「太陽の羅針盤 — 闇を照らす熱波は、ある一点を起点とする」。浮遊・振動・闘志・力・静かさ・未知・神聖さといったキーワードを意識しつつ、最低限の描写で好奇心を喚起するデザイン戦略が用いられています。岸田さんは「研究装置を正確に描いても非専門家には伝わりにくい。だからこそ抽象的でありながら象徴的な表現を試みた」と話しています。

松崎教授は今回の取り組みについて、「高度で専門的な研究内容は他学科の学生にとってすべて理解できるものではないかもしれません。しかし、同じキャンパス内で最先端の研究とデザインが結びつくことは大変貴重であり、学生の今後の成長に大きな意味を持つ経験になったと思います」とコメントしています。また、「小澤先生と私も本学の卒業生として、この環境に学び合いの循環があることが本学の良いところだと感じています」と述べました。

宇宙という壮大な舞台で展開される最先端材料研究に、デザインの力が寄り添うことで、学科の枠を超えた新たな価値創造の可能性が示されています。

ISS「きぼう」での材料研究に小澤教授が参画 学生デザインのシンボルも採用

工学とデザインの協働 小澤教授研究と松崎研学生のデザインがJAXAプロジェクトに

ISS「きぼう」での材料研究に小澤教授が参画学生デザインのシンボルも採用

工学とデザインの協働　小澤教授研究と松崎研学生のデザインがJAXAプロジェクトに